二ホングマの親子

クマはなぜ人里に出てくるのか?

2025年4~11月のツキノワグマの出没件数は47,038件。捕獲数は12,659頭。
いずれも2006年度以降で過去最多となってしまった。
人的被害もしかりであり、多くは東北であった。
クマ問題は複合的といわれる原因と課題をまとめてみた。

クマの食性と生態

クマの食性は9割が植物

2025年の東北地方では、まずクマの主食であるブナなどのドングリの大凶作に加え、
猛暑などにより桑の実、野イチゴ、山ぶどう、キノコも不作であったそうだ。
クマは食肉目ではあるが、好物はドングリや山菜で食物の9割が植物であり、他には昆虫、魚などの小動物
などだ。シカを捕食するという例もあるが主食とはいえない。

ドングリ

クマの好物

クマの生態

クマは12月頃から4月頃まで冬眠に入り、飲まず食わずで出産子育てまでする。
そのためにはたくさん食べて体力をつけなければならない。
2023年や2025年のように、食べるものが少ない場合、奥山の餌場は力の強い雄グマにより占領され、
力の弱い若グマや子連れのクマは、しかたがなく人里まで下りてきていると考えられる。

クマは繁殖可能年齢が4歳から、実際には7歳頃からだと言われている。
さらに生まれた子は1年半ほど母親と行動し、生きていくすべを教わる。
繁殖能力が高い動物では決してないことがわかるだろう。

人工林の放置

 戦後60~70年ほど前、奥山の豊かな森を伐採し、木材目的で杉・檜・松などの針葉樹が植えられた。
日本の森林面積約2,500万haの内、このような人工林は約1,000万ha(約40%)に及ぶ。
 こういった人工林は木材として収穫しなければならない時期を過ぎているのだが、安い輸入材に押され、国産材の利用があまりなくなったこと、林業従事者の不足などにより、放置されてしまっているのである。
荒廃した人工林には、日光があまり射さないため下草もあまり生えず、保水力なども低下し土砂災害を起こしやすくなる。
さらに、成長してしまった木はCO2の吸収も十分ではなくなる。
 私たちは山々が緑に覆われていれば、豊かな自然だと思ってしまう。しかし実際は生き物が棲める場所ではない死の森なのかもしれないのだ。
奥山の放棄された人工林

荒廃した人工林

人間の管理がある程度入っている人工林では下草も生え、クマの一番の好物のドングリなどはないものの、
セミの幼虫やアリといった昆虫などをクマが食べることも確認されている。
だが、このこと自体、シカ、イノシシなどの食の競合相手の増加によるクマたちの生存戦略かもしれないと考えられている。

生物多様性を高めるため、温暖化防止のため、奥山人口林の木を伐採し、
広葉樹を植え替えるといった森林の更新は一刻も早く進めなければならない。
国の方針として人工林を植えたのであれば、責任を持って人工林を管理するのが当然であろう。
せめて、輸入材を減らし国産材の利用を積極的に促進するぐらいの政策をしてもらいたい。

参照:森林・林業学習館「日本の林業の現状」

里山の荒廃

 里山とは人間の暮らしの近くに広がる雑木林などのことで、人手によって管理維持されてきた場所だ。
管理された雑木林は鳥類や小動物などの生物多様性に貢献し、クマやシカなど奥山に棲む大型動物にとっては
人里との緩衝地帯となるとても重要な場所である。
しかし、里山で作った薪や堆肥などの需要が減ったこと、過疎化や高齢化による人手不足が原因で、
里山の荒廃が進んでいる。
管理されなくなった里山は、竹や藪が増えるなどして奥山との境界もなくなること、
さらに放置された柿の木などの果樹はクマにとっては魅力的な食べ物であることなど、
荒廃した里山はクマたちにとって、緩衝地帯ではなくなっている。
食べ物を探し求めるうちにふと気づくと、人家の庭に入り込んでいたということになるのだろう。

シカ・イノシシの生息拡大

シカはほとんどの植物を食べることができ、木の樹皮や新芽、ドングリも好物である。
イノシシもまたタケノコやイモ類、小動物、ドングリなどが好物であり、食性がクマと重なっている。
ニホンオオカミの絶滅によって、天敵のいなくなったシカ、イノシシは急速に増え、さらに近年の温暖化による降雪量の減少などが、シカたちにとっては冬季に生き延びられる要因となった。

二ホンジカ親子

二ホンジカ親子

シカ、イノシシの農業・林業への被害は深刻であり、さらに増えて過密になったシカは苗木や新芽なども食べつくしてしまうため、樹木が育たず、地盤が弱くなり土砂災害を引き起こすまでになっているのである。
子ジカを捕食するクマもいるが、シカの天敵とまではいかない。
むしろシカ、イノシシの生息数拡大はクマにとって脅威となっている。
オオカミを絶滅させたことにより生態系のバランスを崩した責任は人間にある。

参照:森林・林業学習館「シカ問題ー食害の現状と対策ー」

気候変動とナラ枯れ

ナラ枯れ被害

ナラ枯れにより赤茶けたナラ類樹木

 クマの大好物ドングリ。ドングリをつけるミズナラやコナラなどのナラ枯れが各地で広がっている。
ナラ枯れは広葉樹を枯らす感染症で、病原菌をカシノナガキクイムシ(カシナガ)という虫が運んでくる。
カシナガはわずか5ミリ程度の昆虫だが、木の幹に穴を開け菌を広げ、感染した木は赤茶色になり枯死してしまう。
 気候変動による猛暑がナラ類にストレスを与えたこと、温暖化によりカシナガが越冬したことなどが
原因であり、2025年の東北地方や群馬県では確実に被害が広がっているそうだ。
ドングリの不作とナラ枯れで、クマの主食は激減だったことがわかる。

再生可能エネルギー事業の拡大

 太陽光発電(ソーラーパネル)、風力、水力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーは二酸化炭素(CO2)排出量削減と持続可能エネルギーとして、地球温暖化対策のたいへん重要な役割を担っている。
しかし現在、再生可能エネルギーの立地場所について、日本全国で問題が持ち上がってきている。

山の斜面に造られた太陽光発電(ソーラーパネル)施設

山の斜面に設置されたソーラーパネル

山の斜面に設置されたソーラーパネル

 豊かな広葉樹林を伐採し、太陽光パネルが斜面を覆いつくすメガソーラー施設や山の尾根伝いに造られた大規模風力発電。
自然を破壊して造ることは本末転倒以外の何物でもない
また、野生動物のみならず、地元住民にとっては土砂災害などの危険もはらんでいるのである。
水源である森を破壊することによるリスクは、計り知れない影響をもたらす。

参照:山と渓谷オンライン「仙台の水源の森はどうなる? 日本最大級メガソーラー関連施設計画地を歩く」

※ ここの雑木林は天然記念物のイヌワシやツキノワグマといった
野生動物、レッドリスト準絶滅危惧種ヒメシャガといった植物相も豊かであり、
何より秋保郷の水源地である。けっして手を付けてはならない場所だ。

山の尾根に造られた風力発電

 山の尾根伝いに造られた大規模風力発電は、大規模環境破壊のみならず、バードストライクによる鳥類への影響も大きい。
騒音や低周波、景観なども問題になってきている。
背炙り山風力発電

会津若松ウィンドファームHPより 背炙山風力発電

※ すでに8基の風力発電が稼働しているが、さらに大規模拡大が予定されている。
天然記念物イヌワシやクマタカの生息地であり、2025年にラムサール条約に登録された苗代湖も近くにあり、
希少生物を保護する国有林「緑の回廊」も含まれる土地である。

マスメディアによる偏向報道

 2025年、クマの出没に関するニュースの多さは異常であった。
マスメディアの報道は“恐怖”を強調しすぎる傾向がある。
クマが迷い込んで建物に入れば出入り口を塞ぎ閉じ込めておいて、または
木に登っているクマを人間が取り囲んで下りられない状態にしておいて、
「クマが何時間も居座っている」と報道する。
親グマが子グマを守るための行動を「人に襲いかかってきた」などである。
多くの番組や記事は、インパクトのある映像や表現を繰り返し流し、「クマ=危険」という印象を社会に広げてしまった。
 さらに、2025年に「鳥獣の保護および管理並びに狩猟の適正化に関する法律」において「緊急銃猟制度」
が設けられ、クマなどが人の生活圏に侵入した場合、役所の判断で銃器による捕獲ができるようになると、
本来なら追い払いや誘導で対応できる場合でも「見つけたら駆除」という判断が選ばれやすくなってしまった。
親を失い、冬眠もすることができずにさまよう体長50センチほどの子グマですら、
「冬眠をしないクマがうろつく」と報道する。
本当に必要なのは、恐怖を煽ることではなく、正しく怖がることと、事実に基づいた冷静な理解だ
人の安全も、野生動物の命も守るために、正確でバランスの取れた報道が求められている。

地方自治体に野生動物の専門家がほぼいない

 都道府県の市町村において野生動物を担当しているのは
農林課、環境課などであるが、野生動物管理の専門家がいない自治体がほとんどである。
たとえ、野生動物管理について勉強したとしても、数年で公務員は配置転換されてしまう。
 さらに、野生動物管理が狩猟や駆除の延長として長年扱われ、
人身被害、農業被害への即効性が求められてきたために、駆除偏重という対応になりやすいことも
クマにとっては悲劇であった。
 ここ数年のクマ被害の多さから、専門官を置く自治体が出てきたが、やはり保護管理ではなく駆除することが主な仕事であるようだ。
人に危害を加えてしまったクマを駆除することは仕方がないかもしれない。
しかし、持続可能な生態系の維持のためにも、駆除一辺倒ではなく、みなしごの子グマを一時的にでも保護し、
奥山に帰すことができるような知識のある専任の野生動物管理官をすべての自治体に配置してほしい
と思うことは贅沢なのであろうか。

クマは生態系を守るための要(かなめ)

 クマは「アンブレラ種」または「キーストーン種」だと言われている。
アンブレラ種というのは、地域の生態系ピラミッドの最高位、高次消費者であることから、
その生息環境を守ることで、ピラミッドの下位にいる多様な生態系を傘のように保護できると
考えられている種のことである。
「キーストーン種」は生態系全体のバランスに大きく寄与している要石のような種。
日本人は120年前に二ホンオオカミを絶滅させたが、オオカミは間違いなくアンブレラ種であった。

 クマも多少は生きたシカなども捕食するが、オオカミには到底かなわない。
しかし、ツキノワグマは90種もの果実を食べ、糞として種子を山に散布し、森林を形成させ、
さらには地球温暖化が樹木に与える悪影響を緩和させる役割まで果たしている可能性もあるという。
さらにシカなどの死体を食べるスカベンジャーとしての役割や、餌を探して土を掘り返したり、
マーキングのために樹皮を剥いだりという行動が他の動植物の営みにも関係してくるなど、
生態系の重要な要石キーストーンであることに変わりはないであろう。

クマが絶滅した場合の影響について

  生態系はクマだけを見ていてもわかるものではない。
植物、昆虫、無脊椎動物、鳥類、小型哺乳類から大型哺乳類、水、空気、気候。そして人間の関与。
それらが複雑に混ざり合っているからだ。
研究者にとっても、クマが生態系にとって重要であろうとは予想できても、完全に理解することは不可能であり、
森の生態系の仕組みについてはわからないことがたくさんあると述べている。
クマが絶滅したことで生じる生態系への影響は数年で現れてくるものではなく、
最低でも100年単位で考えなければならないだろうとのこと。
人類は森から多くの恵みを得ている。森が水を育んでいるといってもよい。
奥山の水源から流れ出た水はやがて海に出ていく。奥山が汚染されれば海も汚染される。
光の射さない暗い人工林では豊かな水は作られない。
 森の豊かな保水力を造っているのは豊かな広葉・混合樹林帯であり、その森を造っているのはクマなのではないかということだ。
豊かな水源があってこそ、人間を含むすべての生命が支えられているのである。
人間が生きていくうえで必要な都市生活も産業もすべては関係してくることだ。
クマが生きていくことができなくなった山や森は衰退し、やがては人間にとっても大きな痛手となってかえってくるのだろう。

まとめ

  1. 奥山人工林放置による森林の荒廃
  2. 食べ物が競合しているシカ・イノシシの生息数拡大
  3. ナラ枯れと気候変動
  4. 里山の荒廃
  5. 奥山に設置した再生可能エネルギー施設

クマが人里に出てくる要因は奥山の荒廃による食べ物が足りないことにつきると思われる。
そのどれもが人間がもたらしたものであり、人間が適切に対処しなければならない。

2025年のように、クマを駆除一辺倒で殺し続けるような場当たり的な対策では何も解決しない。
クマによる人身被害だけが問題ではないからである。奥山の荒廃は人間にとっても早急に手を打たなければならないものだからだ。
クマ駆除に偏らない適切な政治の一刻も早い介入が必要であろう。

クマ関連問題提起団体
日本熊森協会:https://kumamori.org/
全国再エネ問題連絡会:https://saiene-net.org/

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